『働くことすなわち労働は働く者自身の活動である。それは人の活動である。人の本性でもある。論理ではない。いくつかの力学をもち、いくつかの側面を持つ。』
P.F.ドラッカー,マネジメント《上》 第16章
前回、労働の側面のうち、『①生理的な側面』について書かせて頂きました。 今回は、②心理的・③社会的・④経済的な側面について紹介します。
それぞれの側面は全く別のものですが、複雑に絡み合っています。それらを考慮しつつ、それぞれ別個の分析をする必要があります。
②心理的な側面
人にとって仕事は、重荷となる一方において必要ともなります。辛苦となる一方において喜びややりがいにもなります。
記憶に残っている仕事は、辛かったことの方が多いと思います。そしてそれは時間の経過とともに、困難な仕事を乗り越えた自信になっていくのです。
また、失業が人を傷つけるのは金銭面より尊厳に関わるからです。
③社会的な側面
働くことが自らと社会をつなぐ絆でもあります。
「私は医者です」、「私は大工です」という言葉は、社会での役割やコミュニティでの位置付けを表す自己紹介です。仕事は人の好き嫌いとは関係ありません。感情を抜きで行うこともできます。仕事にやりがいを持つことができたならば、嫌いな人とでも仕事は出来ます。
そして退職者が気になるのは、仕事の方ではなく一緒に働いた仲間のことなのです。
④経済的な側面
仕事は生計の糧になっています。つまり、経済的な側面を持っています。仕事は、人と人の間に経済的な関係と経済的な衝突をもたらしています。この衝突の解決は難しく、しかも避けることが出来ません。
生計としての賃金は安定的、継続的であって、かつ一家の生計費、欲求、社会的地位に見合っていなければなりません。それは固定的になってしまいます。
一方、コストとしての賃金は、会社の生産性に見合っていなければなりません。会社の生産性とは市場に適応しなければならず、それには柔軟性がなければなりません。
また、生産している製品やサービスに競争力を与えるものでなければなりません。それは働く人のニーズや期待とは関係なく、顧客によって決められてしまいます。
生計としての賃金とコストとしての賃金は、解決するどころか緩和することさえ難しい課題です。
利益の分配も、業績が好調な時にしか機能しません。業績が悪化すれば、「生計としての賃金」と「コストとしての賃金」の衝突が再燃します。
そもそも、利益を上げ続けられる会社は稀です。利益の分配は働く人にとっては嬉しいものではあるけれども、大きなものではないのです。働く人にとって重要なのは、利益の配分より雇用の安定なのです。
次回は労働の側面のうち、⑤政治的な側面・⑥分配に関わる側面について書かせて頂きます。