『人事は究極にしておそらくは唯一の管理手段である。』
P.F.ドラッカー,非営利組織の経営 第4部
人的資源からどれだけ引き出せるかによって業績が決まります。つまり、誰を採用し、誰を移動させ、誰を昇進させるかという人事によって決まるのです。ミッションや長期的なビジョンの大切さを言いながら、短期的な利益を上げた人だけを昇進させてはいないでしょうか。掲げるミッション、価値、目的が口先ではなく、本物で意味のあるものであるか、つまり人事の質が重要なのです。どんな仕事で成果をあげた人を昇進させるかで、会社の方向性を決めると言っても過言ではないのです。
業績を左右させるのは人です。優れた人材を他の会社からリクルートしたり、会社にとどまってもらうことは容易なことではありません。極小の組織は別としても、平均的な人材しかリクルートできないのが通常です。また、優秀な人材を会社にとどまってもらうことでさえ難しいことと覚悟しておかなければなりません。したがって、優秀な社員をリクルートすることも大切ですが、すでにいる人材からより多くを引き出すことに力を尽くすのが懸命なのです。
人事の原則
・人事はなされるべき仕事からスタートする
人に仕事をつけるのではなく、仕事を設計した上で人を配置します。いわゆる適材適所ではなく、適所適材です。
・候補者を複数用意する
誰が最も適任かは自明と思います。しかし、感覚で決めてはいけないのです。複数の候補者を観察することによって、親しさや先入観で目を曇らせることを防がなければならないのです。
・成果の実績を見る
性格を見るのではありません。「人とうまくやっていけるか」「イニシアチブをとれるか」などで評価してはいけません。「最近、仕事をどうこなしたか、どうやり遂げたか」をみるのです。
・強みを見なければならない
人事において重要なことは弱みを最小限度に抑えることではなく、強みを最大限に発揮させることにあるのです。
・「手放せない、いなくては困る」という声に耳を貸してはいけない
理由は3つです。
①その人が実際は無能であり、かばってやる必要がある場合
②上司が楽をするため
③重要な問題を隠すため
そして、異動の3カ月後、「これから何をやるつもりか書き出して下さい」と質問をし、何を書き出すかで人事が正しかたっかどうかが分かります。人事がうまくいかなかったからといって、その人を無能と決めつけてはいけません。人事を行った人が間違ったにすぎないのです。仕事ができないことは、本人のせいではないのです。
だからといって重要な仕事をこなせない人をそのままにしておいて良いわけではありません。移動させることが会社と本人に対する責任です。
新しい仕事でうまくいかなかった人は前職に匹敵する地位と報酬に戻してあげることを慣行化すると良いのですが、そういう会社は稀です。そのため、失敗した人のほとんどが辞めています。もし前職相当のポストに戻すことを慣行化しておけば、うまくいっているポストからリスクのあるポストへの移動に意欲も生まれることでしょう。業績を左右するものは、働く人の意欲なのです。
優れた人事の原則はさほど難しいことはありません。人事で成果をあげている人は、単純なプロセスを忠実に実践しているのです。