『意思決定とは、問題を理解し、分析し、判断し、リスクを冒し、成果をあげる行動にいたるまでのプロセスである』
P.F.ドラッカー,現代の経営《下》 第28章
経営管理者の行う意思決定の結果は、働く人の仕事に影響を与えます。したがってそれが働く人の目標としているものの達成や、仕事を助けるものでなければなりません。と同時に、働く人たちの自己実現を図れることでなければならないのです。
戦略的な意思決定には、①問題の理解、②問題の分析、③解決案の作成、④解決策の選定、⑤効果的な実行、の5つの段階があります。今回は前回の続きからです。
③解決案の作成
様々な課題に対しては、複数の解決案を作成することが原則です。そうでないと「間違った『二者択一の罠』にはまる」と、ドラッカーはいいます。
「緑と赤しかない」といえば誰でもおかしいと思います。「緑か非緑か」という考えと、「緑か赤か」という考え方を混同することがよく見られます。前者は全ての色を取り上げているのに対し、後者はあらゆる色のうち2つを取り上げているにすぎません。「緑か赤か」という課題設定にはあらゆる色が含まれるものと勘違いしてしまいます。
「白か黒か」という場合でも、単に両極端について言っただけであるにもかかわらず、あらゆる色について言ったつもりになるので気をつけましょう。
複数の解決案を求めつつ、『何もしない』という解決案も検討しましょう。それは『必要のない手術を行わないのが一流の外科医』であるのと同じなのです。
④解決策の選定
複数の解決案から最善の解決策を選定するには、いくつかの基準があります。解決案が1つしか見つからないとき、は先入観があるのかもしれません。
❶リスク
行動にはリスクが伴います。行動しないことにもリスクが伴います。解決案から得られるものと冒さなければならないリスクを比較することが重要です。
❷経済性
解決案のうち最小の労力で最大の成果をもたらすもの、混乱を最小にとどめつつ必要な変化をもたらすものを選択します。
❸タイミング
解決案を実行するタイミングは、分析する能力よりも知覚する能力が必要とされます。実行するタイミングを体系的に決めるのが難しいからです。
⑤効果的な実行
最善の解決案で実行され、かつ、成果を上げなければなりません。解決案は実行されなければ最善の解決策であっても良き意図に過ぎないのです。決定を行う人自らが実行することはあまりありません。経営管理者は何を行うかを伝え、動機づけを行います。
曖昧なところなく正確に伝えられたとしても、動機づけに失敗したら成果を得られません。動機づけは人の心理によるところなので、別の原則を必要とします。