『働く人を雇うということは、人を雇うということである。(中略)人は働きたがらないと仮定するならば、人と仕事のマネジメントは絶望的となる。』

P.F.ドラッカー,現代の経営【下】第20章
代表取締役 瀧野 雅一

 人は働き者であると前提にすれば、マネジメントの直面する課題は①働く人の意欲を知り、②働く人を参画させ、③働きたいという欲求を引き出すこと、になります。人と仕事のマネジメントにおいては、人的資源をいかに活用できるかにかかっています。「人的資源」の〝人的〟という言葉を中心に据えるか、〝資源〟という言葉を中心に据えるかによって大きく異なってきます。

○資源としての働く人
①人的〝資源〟

 働く人が人であることは置いといて、銅や水力などの資源と同じように、働く人たちを資源として有効に活用するかを考えることが必要です。したがって、エンジニアリング的なアプローチが必要となり、そのためにはまず、優れた能力と劣る能力を考えます。人という資源に特有の資質と制約を考慮に入れて仕事を組み立てます。

人の資質

❶調整、❷統合、❸判断、❹想像するなど

機械の資質

❶物理的な腕力、❷手先の技能、❸知覚する能力❹持続性など

②〝人的〟資源

 働く人を人として見る必要があります。精神的、社会的な存在として認識し、その特質に合ったアプローチが必要です。なぜなら、人格を持つ存在としての人を利用できるのは、本人だけだからです。働くか働かないかについてさえ、本人が完全な支配力を持っているのです。独裁的なリーダーはしばしばこのことを忘れてしまいます。大きな声で指示するだけでは本当の仕事は行われません。したがって、〝人的〟資源については常に動機づけが必要となります。積極的な動機づけを生み出すことがマネジメントが直面する中心的な課題なのです。

○経済的な側面

 企業は企業外部の経済システム(社会における富の創出機関)と企業内部の経済システム(働く人の生計の資の供給源)、2つのシステムを持ちます。会社にとって、賃金(労働の報酬)は、必然的にコストになります。しかし、その受け手の働く人にとっての賃金は、本人や家族の生計の資になります。会社にとって賃金は常に生産単位あたりの賃金ですが、受け手にとっては常に本人や家族の経済的基盤です。ここに基本的な対立の源があります。会社ではコスト(賃金)が柔軟であることを必要とし、働く人は景気に関係なく働く意思さえ持てば確実に且つ安定した収入を得られることを求めます。加えて利益の二面性があります。会社にとって利益は自らの存在のための必要条件です。しかし、働く人にとっての利益は他の者の収入なのです。

 会社は適切な利益をあげつつ活動しなければなりません。このことは、会社にとって社会全体に対する第一の責任であるとともに、自らとそこに働く人に対する第一の義務です。したがって、会社の目標と働く人の自己実現を完全に一致させることは不可能だとしても、重なるところを少しでも増やすようマネジメントしなければならないのです。