『 労働の各側面は互いに複雑に絡み合っている。(中略)しかも働く者の置かれた環境の変化によって大きく変貌していくものである。』
P.F.ドラッカー,マネジメント《上》 第16章
前々回から前回まで、働くことの側面のうち、①生理的な側面②心理的な側面③社会的な側面④経済的な側面について書かせて頂きました。今回は⑤政治的な側面⑥分配に関わる側面、についてです。
⑤政治的な側面
会社で働くということは、権力関係が伴います。農家であれば、自分がしたいことよりもなされるべきことを優先します。つまり種を蒔く時期には種を蒔かなければならず、収穫の時期には収穫をしなければなりません。従うべきものは季節であったり、天候です。
現在の会社組織は小規模であっても、権力というものが存在します。仕事を設計し、組み立て、人に仕事を割り当てます。順序に従って日程通りに仕事を遂行していきます。昇進させたり、させなかったりします。会社ではこうして誰かが権力を行使するという、政治的な側面が存在します。
⑥分配に関わる側面
会社で働く人の貢献に、それぞれの収入を直接結びつけることはできません。全員のスキルが同じわけでもありません。社長からアルバイトまで、誰がどれだけ売り上げに貢献したかを推測することさえ困難です。いえることは、全員の貢献が必要だということです。
会社は顧客に満足をもたらすことで、収入を得ます。顧客は会社の外に存在します。会社の外にある成果を、会社の内部で分配しなければならないので、客観的・科学的な関連づけが不可能な限り、収入を働いている人の間で分配するためには権力が必要となるのです。
分配に関わる決定は、経済的にならざるをえません。そしてその決定は政治的となり、誰かによって行われています。この決定を行わずにすまされる会社はないのです。
働く人の欲求は満足されていくに従い、重要度だけでなく性格も変えていきます。経済的な満足は経済的な報酬に喜びはなくなっていきます。しかし経済的な報酬が重要でなくなるということではありません。積極的なインセンティヴとしての力は、失っていく一方において、不足が不満をもたらす力は急速に大きくなっていきます。
二人の副社長の年収数万円の違いは、経済的には無視できます。しかしながら、年収が少ない方の副社長は年収が高かったとしても不満は残ってしまいます。
このことは幹部社員だけではありません。ベテランパートは新人パートより厚遇を要求しますが、新人パートは「同じ仕事をしているから同額を」と要求します。報酬が働くことの経済的側面から社会的側面、心理的側面へと変化していくのです。
働くことの側面は、独自の力学が存在します。それぞれ要求するものも異質です。しかし、働く現場に存在する以上、マネジメントしなければならないのです。