『事業の目的は顧客の創造である。』

P.F.ドラッカー,創造する経営者・第6章
代表取締役 瀧野 雅一

 顧客の創造とは、買わないことを選択できる人の購買力と交換してくれるモノ・コト・トキを供給することです。したがって、マーケティングは顧客を理解することから始めなければなりません。

 よく顧客ターゲットといって販売戦略を立てたりしますが、ターゲットになっているのはお店や企業の方です。企業は顧客が何に対して対価が支払われているのを知る必要があるのです。

◯顧客は満足を買う

 顧客は満足を得るために代金を支払います。しかし、満足そのものを生産したり供給したりはできません。満足を得るための手段をつくって引き渡しているにすぎないのです。

 例えば、ドリルを買う人は何が欲しいでしょうか? 答えは『穴』です。ドリルそのものが欲しいわけではありません。小さな穴を一つ空けるだけであれば、キリを勧めた方が良いかもしれません。

◯競争相手は同業他社にとどまらない

 私達のクリーニング店で例えると、競争相手は『コインランドリー』だったり、『ドライマークも洗える家庭用の洗濯機』だったり、キャッチコピーが「ファブリーズで洗おう」でお馴染みの『ファブリーズ』であったり、布団掃除機の『レイコップ』であったりします。

◯決定権をもつ者

 顧客とは支払う者ではなく、買うことを決定する者です。

 薬は患者ではなく医師です。缶詰メーカーの顧客は主婦とスーパーの二人います。スーパーに陳列してくれなければ、主婦も購入できません。棚になければ目につく他社の缶詰を購入するだけです。「他のスーパーにまで探しに行ってくれるはず」と考えるのは危険です。消費者向けのテレビCMも、小売業社に対して効果がある場合も多いのです。

◯拒否権を持つ者

 部品メーカーにとって顧客(決定権をもつ者)が誰なのかを決めることは大変です。

 機械メーカーの購買担当者か、仕様を決める機械メーカーの技術者か、それとも完成品の機械の購入者か。完成品の機械の購入者はどの部品にするかについては、通常、決定権は持っていません。しかし、拒否権はもっています。少なくとも拒否権を発動されないようにしましょう。

 時間に余裕のできた昨今では、コンビニでさえ苦戦を強いられます。便利だけでは利用されません。

 洗剤の広告は、洗濯物が白くなることばかりを繰り返します。しかし、どれだけの人が洗濯物の白さについて関心があるでしょうか。企業の倒産についても従業員・納入業社・銀行にとっては大惨事です。しかし市場には何も起こりません。

 顧客の企業に対する関心は些細なものです。顧客のニーズに応えることができなければ、ガラケーからスマホに変化させたような、顧客の習慣を変えるという、はるかに難しい仕事に取り組まなければならないことになるのです。