『マネジメントとは意思決定のプロセスである。』

P.F.ドラッカー,現代の経営【下】第2章
代表取締役 瀧野 雅一

 経営管理者は、あらゆることを意思決定を通して行います。

 意思決定は、日常の業務として行われています。あまりにも日常なので、意思決定を行っていることに気づかないことさえあります。

 一方、企業の存続を左右するような意思決定もあります。マネジメントにおける意思決定の重要性は一般的にも認識されていますが、意思決定の論議の大部分は問題の解決、すなわち答えを出すことに集中しています。

 ドラッカーは、「間違った焦点の合わせかたである。」と言い切っています。

戦術的な意思決定

 問題の解決だけを重要視すればよい日常の戦術的な意思決定であれば、意思決定の基準は経済的な要因だけです。

 簡単な例ですと、勤務時間のコーヒーブレイクの必要性です。コーヒーブレイクは仕事にとってプラスかマイナスか。つまり、失われた労働時間を上回る勤労意欲がもたらされるか。もう一つは、数分間の節約のために習慣を変える価値はあるかです。

 もちろん戦術的な意思決定のほとんどが重要であり、複雑です。しかし、戦術的な意思決定は一次元的な問題です。重要な意思決定、すなわち大きな意味を持つ意思決定は、戦略的な意思決定です。

戦略的な意思決定

 戦略的な意思決定とは、事業の目的や手段について、大規模な資本支出、工場のレイアウトなどです。

 範囲が広かったり、複雑であったり、重要であったとしても、初めから答えを得ようとしてはいけません。重要なことは答えを見つけることではなく、正しい答えを探すことなのです。間違った問いに対する答えほど、危険と言えないまでも、役に立たないものはありません。

 正しい答えを見つけたとしても、その行動に成果を上げさせることの方が、重要であり難しいものです。

 経営管理者は、把握すべき事実を全て手に入れられるわけではありません。

 意思決定のほとんどは、不完全な状態で行われます。情報の入手が困難であったり、時間や費用がかかりすぎたりします。情報の入手が不可能であれば、憶測が必要です。憶測が正しかったかどうかは後になってみなければわかりません。そして、仕事上で直ちに意思決定を行える問題など、ほとんどありません。全体的な問題か、個別的な問題*か。たまたま起きた問題か、繰り返し起こる問題か。そして、原則通り行えば良いか、例外的に行えば良いか。

 意思決定とは、問題を理解し、分析し、リスクを冒し、成果をあげる行動にいたるまでのプロセスです。経営管理者たるものは今後、ますます戦略的な意思決定を行うようになります。直感による戦術的な意思決定の能力に依存することは、できなくなるのです。