『目標は、明日成果を上げるために今日とるべき行動についての意思決定を容易にする。その目標は、将来を予期することによって設定される。』
P.F.ドラッカー,現代の経営《上》第8章
目標は近い将来の成果と、遠い将来の成果とのバランスを決定します。バランスこそ事業のマネジメントにおいて最も重要なことです。マネジメントが行う意思決定のほとんどが、事業上長期的なものです。研究開発、工場建設、販売組織の設計、新製品の設計など、成果をもたらすまでには数年かかります。そのために投じた人や資金を回収するには、さらに長い年月を要します。
5年、10年先の予測は推測にとどまります。しかし、知的な推測とヤマ勘は違います。起こりうる可能性の合理的な評価に基づく推測と、賭けにすぎない推測の間には、大きな違いがあるのです。
◯景気循環を迂回する
いかなる事業計画も、経済情勢を無視することはできません。マネジメントが必要とするものは、通常の意味における景気予測ではありません。明日の景気を予想し、3年、5
年、あるいは10年後の経営環境を予想するというのは、景気予測ではありません。必要なのは、景気循環への依存から自らの思考と計画を切り離してくれる手法です。
意思決定において、景気変動は重要な要因です。同じ意思決定でも、好況時に実施した場合と不況時に実施した場合では、その有効性や成否は大きく違ってきます。『不況の底で投資をし、好況のピークでは拡張や投資を避けよ』との助言は、経済学では常識です。
株で言えば、『安く買って、高く売れ』ということです。確かにこの通りですが、どのように実行したら良いか、現在は景気循環のどの段階にあるか、誰が知っているか…。
著名なエコノミストの予測も大して当てにはなりません。しかも、景気予測が正しく行われるとするならば、そもそも景気循環に注意することに意味がなくなります。なぜなら、世の中のみんながこの助言に従えば、そもそも好不況がなくなります。そのような助言に従うことが心理的に不可能だからこそ極端な景気循環が起こるのです。
確かに好不況はあります。しかし、景気循環は事後的にのみ分析が可能なのです。過去の景気循環を説明できたとしても、将来の景気循環を予測することのできない分析は、事業のマネジメントには役に立たないのです。
◯意思決定のための手法
① 過去の経験から想定される最悪の状況を想定し、意思決定する
② すでに起こってはいるが、経済への影響がまだ現れていない事象(人口統計・新しい技術革新や価値観)に基づいて意思決定をする
現時点ではさほど影響はありませんが、SDGsへの取り組みが不可欠となりつつあります。
これらの手法を駆使したとしても、将来に関わる決定は推測にすぎません。しかも推測は間違うことの方が多いので、あらゆる決定について変更・適応・応急措置の準備をしておかなければなりません。
具体的には、明日の経営管理者を体系的に育成しておくことです。今日の決定を明日の情勢に適応させ、合理的な推測を現実の成果に結びつけることができるのは、今日の経営管理者ではなく、明日の経営管理者だからです。