『ミッションの価値は文章の美しさにあるのではない。正しい行動をもたらすことにある。』

P.F.ドラッカー,非営利組織の経営 第一部 第1章
代表取締役 瀧野 雅一

 幸か不幸かどんな会社でも危機は来ます。必ず来ます。その時こそリーダーの出番です。リーダーにとって最も重要な仕事は、危機の到来を予期することです。回避するためではなく、備えるためです。

 危機が来るまで待つという姿勢は、リーダーとしての責任を放棄するのと同じです。暴風雨を予期し、先手を打たなければなりません。同じ状態が長く続いて飽きさせたりさせてもいけません。

 災難の到来を防ぐ術はありません。しかし、災難に対処すべき体制の整った会社、士気が高く、取るべき行動を知り、自信に溢れ、互いに信じ合う百戦錬磨の会社を作ることはできます。

 うまくいかなくなるきっかけは、逆境の時ではなく、順調な時です。逆境は誰もがなすべきことが判ります。ところが、順調な時ほど自己陶酔しやすくなります。リーダーは成功を追求し続けられるように采配をしなければならないのです。

○バランスをとる

 リーダーの重要な仕事の一つが、個別的な問題と全体的な問題、短期的な問題と長期的な問題など、二つの異なる次元のバランスを取らないといけません。

① 集中と多角化のバランス

  最大の成果は集中することによってのみ手にすることができます。しかし、そこにはリスクが伴います。間違ったことに集中したままでいるというリスクです。想像力の発揮に必要な遊びの部分を忘れてしまうリスクもあります。あらゆることが陳腐化していくので、多様な視点を確保しなければなりません。

② 慎重さと迅速さのバランス

  これはタイミングのことです。性急さよりも鈍重さによる失敗の方が多いものです。性急さへの対処は比較的容易で、「3ヶ月と思ったものは5ヶ月待て」と言い聞かせればいいのですが、3ヶ月待つべきものを3年と思っている人もいます。こういうタイプの人の対処は難しいのですが、重要なことは自らを知ることです。特に悪い癖を知ることです。

③ 機会とリスクのバランス

  ここで考えるべきことは、『元に戻すことはできるか』です。元に戻せるものであれば、かなり大きなリスクを取ることができます。特に財政的なリスクには気をつけなければなりません。負えるリスクの範囲内で行動しないといけません。失敗したら立ち直れない程のリスクは、負ってはいけないリスクとなります。

○ボスからリーダーの時代へ

 マネジメントの仕事をする人の定義は『地位と権力を持つ者』、『部下を持つ者』、『部下の仕事に責任を持つ者』へと変わってきました。しかし現在では『知識を行動に具現化することに責任を持つ者』と定義されています。(『現代の経営』より)

 『リーダーの必要な資質は何か?』との問いは、リーダーシップをセミナーで学べるものと考えているからです。リーダーシップが全てであって、それ自体が目的であると考えているかのようです。しかしそれらは間違ったリーダーシップです。自らへの関心を中心に置くリーダーは、間違ってリードしてしまいます。リーダーシップに重要なのはカリスマ性ではなく、ミッションなのです。したがって、リーダーが初めに行うべきことはミッションを考え抜き、定義することなのです。