『「同族企業」という言葉で鍵となるのは、「同族」のほうではない。「企業」のほうである。』

P.F.ドラッカー,(引用元:チェンジリーダーの条件Part4 第5章
代表取締役 瀧野 雅一

 先進国では、中小企業に限らず大企業でも同族でマネジメントしていることが、珍しくありません。

 にもかかわらず、マネジメントについての本のほとんどが、経営のプロによってマネジメントされている上場企業だけを扱っています。同族企業に触れることはほとんどありません。同族企業と他の企業の間に、研究開発・マーケティング・経理などの仕事で違いがあるわけではありません。

 しかし、同族企業はマネジメントの構成に関して、いくつかの原則を必要とします。それらの原則を守らなければ、繁栄するどころか、生き残ることすらできないとドラッカーは言い切っています。

原則① できの悪い一族は働かせないこと

 一族以外の者と比較して、同等の能力をもち、少なくとも同等以上に働く者でないかぎり、同族企業で働かせてはいけません。できの悪い甥っ子を働きに来させて給料を払うくらいであれば、働きに来ないようにお金を払った方が安くすみます。

 同族企業で一族の人間は、肩書きや仕事がなんであれ、社員から見たら事実上トップマネジメントの一員と見てしまいます。週末にはトップと夕食のテーブルを囲み、「おじさん」と呼びます。そのような環境でさらに怠惰な働きぶりでは、他の社員に不満が鬱積していきます。有能な社員は辞めていき、へつらう社員だけが残り、おべっかを使うようになります。

 例えば、一族の凡庸な者、あるいは怠惰な者に部長の肩書きを与えたとします。その代わりに有能な者に次長として高給で迎え、「部長は大株主の叔母を満足させる形式にすぎません。部長も含めた他のスタッフも、みんなあなたが本当の責任者だと理解していますよ。」と言って、うまくいくはずがありません。

 こういう環境では、まともな仕事が行われません。行われるのは駆け引きだけとなってしまいます。

原則② トップマネジメントに一族以外からも採用する

 一族の者が何人いようと、またいかに有能であっても、トップマネジメントのポストの一つには、一族に属さず、公私混同することのない、尊敬すべき者をあてなければなりません。

 同族企業にしても、それを所有する一族にしても、一族が同族企業に奉仕するときにのみ、同族企業も一族も生き残り、繁栄します。

 一族に奉仕するかのようにマネジメントしたのでは、同族企業も一族も生き残り、繁栄することはできないのです。