『エグゼクティブが直面する問題は、満場一致で決められるようなものではない。相反する意見の衝突、異なる視点との対話、異なる判断の間の選択肢があって初めて、よく行いうる。したがって、決定において最も重要なことは、意見の不一致が存在しない時には決定を行うべきではないということである。』

P.F.ドラッカー,経営者の条件 第7章
代表取締役 瀧野 雅一

ドラッカーは正しい決定を行う際には、適切な意見の不一致が必要であるとしています。理由は主に3つあります。

1.組織の囚人になることを防ぐため

 特定の人が、決定を行う者から何かを得ようとすることがあります。特別のものを要求し、善意のもとに都合の良い決定をしてもらおうとします。そういう特別の要請や意図から脱する方法が、十分に検討され事実によって裏づけられた反対意見です。

2.選択肢を与えるため

 いかに慎重に考え抜いても、選択肢のない決定はバクチです。決定には常に間違う危険が伴います。最初から間違っていることもあれば、状況の変化によって間違いになることもあります。決定のプロセスにおいて、他の選択肢を考えてあれば、次に頼るものとして、十分に考えたもの、検討済みのもの、理解済みのものを持つことが出来ます。選択肢がなければ、決定が有効に働かなくなった時、途方に暮れてしまいます。

3.想像力を刺激するから

 不確実な問題においては、新しい状況をつくり出すための創造的な答えが必要です。第一級の想像力は刺激を与えなければ使われないままになってしまいます。理論づけられ、検討し尽くされ、かつ裏付けのある反対意見こそ、想像力を生む効果的な刺激になります。

 成果を上げる人は、意図的に意見の不一致をつくりあげます。無用の対立をあおる人がいることも確かです。分かりきったことに反対したとしても、悪者扱いをせずに知的で公正であると仮定しなければなりません。

 明らかに間違った結論に達している人は、自分とは違う現実を見ていたり、違う問題に気づいているのかもしれないからです。あらゆる選択肢を十分に検討するためや、あらゆる側面を丁寧に見る手段として、反対意見に耳を傾ける努力をしていきましょう。

意思決定には勇気が必要

 決定が満たすべき必要条件を十分に検討し、代替案は全て検討し得るべきものと付随する犠牲とリスクは全て天秤にかけ、誰が何を行うかも理解し、何を行うべきかは十分に明らかになり、決定はほぼ完了となります。

 しかし、決定の多くが行方不明になるのがここからなのです。決定が愉快でなく、評判もよくなく、容易でないことが急に明らかになります。とうとうここで、決定に勇気が必要であることが明らかになるのです。なぜなら、完全な意思決定などあり得ないからです。両立不能な目標、対立する意見、矛盾する優先順位をバランスさせなければなりません。最善を尽くしたとしても、何らかのリスクが残ります。時には妥協が必要なることもあるでしょう。決定に対する献身と信念がない限り必要な努力も持続しません。

 直観による戦術的な意思決定の能力に依存するのではなく、成果のあがる戦略的な意思決定がなされるように、意思決定のプロセスを理解しましょう。

 次回は『自己開発』についてです。